図−22一般的な吸収のイメージ
左図のようなモデルで、ある距離Lを光が通過することによって元の光量I0がIに減少する現象、つまりLの間に存在する粒子により、散乱、屈折反射および厳密な意味での吸収、すべてを含めた光の減衰を広義の吸収ということがあります。この場合の吸収率はI/I0の比で示されます。
本文では、広義、狭義を区別するために前者を減光(Extinction)、後者を吸収(Adsorption)と言うことにします。
粒度分析計にとって重要な意味を持つのは、どちらかと言うと減光の方です。
まず、物理現象としての吸収について簡単に説明します。
物質が存在すると光の伝播は色々な形で影響されます。
それが散乱であり、反射、屈折でもあり、ここで論じようとしている吸収です。わかりやすい例で、光(この場合は白色光)が赤いガラスを通過すると、なぜ赤い光になるのかを考えてください。
つまり白色光の中の赤い波長の光だけが赤いガラスを通過し、その他の波長の光がこの赤い光よりも強く吸収されるからにほかなりません。
選択反射という、物質の表面で、固有の波長のみが反射されるという現象もありますが、基本的に物に色が付いていると見えるのは、この吸収という現象が、選択的に行われている結果ということです。
ではなぜこの吸収が起きるのか?
光は電磁波の一種であることはご存知ですね。つまりある振動数を持つ振動子(双曲子と表現するのが正確ですが)があるという事です。次に物質も振動子で構成されている事もご存知かと思います。
原子核を中心にあるエネルギーレベルに電子が回転するモデルを頭に浮かべてください。
吸収という現象はこの二つの振動子の相互作用で発生します。
光の振動数は
つまり、波長が変われば、振動数も変わります。
また物質も原子配列、つまり原子核に対する電子の距離と数により、振動数が異なります。この二つの振動子の振動が弱め合う方向に作用するのが吸収です。
また、ここでくどいようですが、この吸収という現象が光の波長と物質によって異なるという事を頭に入れておいてもらい、この吸収の説明を終わります。
次に減光(Extinction)に移ります。
図−22のように当てる光の波長に対して、粒子径が小さいとすると、
ここでσeを減光係数:Extinction Coefficient(遠心沈降式粒度分析計では吸光係数と呼ぶ)と表されます。これをLambert-Beer(またはBouguer)の法則といいます。このσeも、径Dの粒子が1cm3内にN個あるとすると次式で表されます。
ここで、
幾何学的な入射電磁波力とは、粒子の断面積を横切るエネルギー量を意味します。つまり、粒子が光を減衰させる量を粒子の投射面積により単なる遮光に対する比で表したものです。
このQeを分解すると、散乱によるQs(一般に散乱断面積:scattering cross-section)と吸収によるQA(一般に吸収断面積:absrption cross-section)との和、つまりQe=Qs+QAとなります。
このQeの値がわかれば、減効率が求められるのですが、これが一筋縄ではいきません。
このQeの値は粒子の屈折率、形状、径および光の波長などによって大きく異なります。
粒子パラメータα=(α=πD/λ)が0.3以下の小さな粒子では
m:屈折率
で表されますが、αが0.3を超える粒子では、非常に複難な変化をします。このQeの変化を示すグラフが図−23、24です。
図−23 球形粒子の減光効率と粒径パラメータとの関係(Hodkinson-1996による)
このようにQeの値が振動していきます。
賢明なる読者は、粒径パラメータαが大きくなるにつれて減光係数が2に収束することに気付かれたと思います。そうです。大きな不透明な物体の消滅断面積は、その幾何学的断面積の2倍に等しいのです。これは光学の世界においても人間界と同様、黒白(明暗)の間のグレーゾーンが意外と広いことを表しています。
図−24 屈折率1.33から1.5の球形粒子の減光効率とα(m-1)との関係(Kerker-1969)による
この図を見てわかるように、この減光の現象に屈折率が大きくかかわっている事がおわかりいただけると思います。
長い行程でしたが、光の基礎理論については、ここで終わります。
(おまけ)
図−23においてm=2.00などという高い屈折率では特定のα値で減光係数が極めて高いピークを示しています。この性質を利用したのが最近の紫外線吸収タイプの化粧品です。特定の波長(紫外線)に対してこのピークが来るように、粒径を制御した高屈折物質をおしろいに混ぜれば良いわけです。高屈折物質としては酸化チタンが利用されます。酸化チタンは白色顔料としても利用されるので、本当の「おしろい」になります。