非局在化密度汎関数法(NLDFT, Non Localized Density Functional Theory)およびコンピューターシミュレーション法(GCMC, Grand Canonical Monte Carlo method)は多孔性材料の細孔分布の新しい評価方法として近年発達してきた。この理論により多くの材料や吸着質の吸着が説明され、ミクロ孔やメソ孔の細孔分布解析に利用されるようになった。この新しい細孔分布評価方法は、従来メソ孔とミクロ孔で使い分けていた理論を、単一の理論での全領域の細孔分布の解析を可能とした。また従来、信頼性に欠けていたミクロ孔領域の細孔分布の精度向上をもたらした。
これらの理論の特徴は、古典的細孔分布解析理論では細孔内吸着相が液体状態であると仮定(Kelvin理論)していたものを、固体表面からの吸着密度の周期的な変化を解析したことである。
この図が示すように、固体表面近傍ではその固体表面原子・吸着質相互作用により、吸着質密度が高く周期的に変化している。すなわち、吸着が圧力の上昇に伴い1層、2層吸着と進んで行き、4層目からは固体からの影響を吸着分子はほとんど受けずに、吸着分子間の相互作用のみによるバルクの液体の密度になっている。
この計算においては細孔構造(スリット、シリンダー)の選択、吸着質・吸着材のパラメータ(N2/Ar/CO2, Carbon/Oxygen)などの決定が必要である。これらパラメータを決定しNLDFTあるいはGCMCにより各種細孔径における理論吸着等温線を作成する。
この図からわかるように、細孔径が大きくなるにつれて凝縮圧が上昇している。ミクロ孔領域ではI型の等温線を示し、メソ孔領域になるとIV型に変化していることも忠実に再現している。興味深い点は細孔径が分子サイズより小さいところでの吸着が表現され、その細孔の凝縮圧が逆に高い相対圧にあるということである。これは分子サイズが細孔径に近い状態では圧力が高い状態でようやく細孔内に進入できることを表している。また数 nm以上の細孔においては単分子吸着層形成の後、細孔内凝縮が起こることもよく表現されている。このような現象は古典的な理論では表現できておらず、NLDFT/GCMC法がより材料の吸着状態を忠実に表現できていると考えられるゆえんである。
細孔分布を得るにはスリット型の場合次式により細孔分布f(H)を仮定しその分布に相当する理論等温線ρ(P,H)を積分し理想吸着等温線 IAEを計算する。
これを測定された実験吸着等温線とフィッティングさせ吸着量のエラーが最小となる細孔分布曲線を算出する。
ここで重要なことは、他の細孔分析解析理論は、実験値を細孔分布に直接解析するので、結果は変化することが無い。しかし、本方法は細孔分布を仮定し、そこからできた理想吸着等温線を実験値にフィッティングするので、コンピューターソフトのフィッテングアルゴリズムにより結果が変化する可能性がある。その為、解析されたIAEと実験値を比較し、かつ材料の他の情報と照らし合わせ結果の妥当性を吟味する必要がある。すなわち、材料情報がない未知の材料の場合は、従来の吸着等温線から直接計算する理論を適用し、材料の細孔構造が良く知られていて、NLDFT/GCMC法の仮定とよく合う場合においてはこれを使用するのが好ましい。下図にZSM-5とMCM-41の混合物(3:1)のAr吸着等温線(87 K)とNLDFTからの細孔分布を示す。
ZSM-5とMCM-41混合物の吸着等温線とNLDFT理論による細孔分布曲線