動的光散乱(DLS)は、懸濁液やエマルション中の粒子径分布を評価するための確立された測定技術です。粒子径分布(粒度分布)測定技術のパイオニアであるマイクロトラックは、30年以上にわたって動的光散乱式に基づく光学システムを開発してきました。
動的光散乱式(DLS)は、懸濁液やエマルション中の微粒子を高精度に測定します。この方式はブラウン運動(小さな粒子は早く、大きな粒子は遅く動く)に基づいており、約1nmから数μmの粒子径を測定できます。 レーザ回折・散乱式では測定が困難な100nm以下の微粒子が測定可能であり、低濃度から高濃度まで幅広い濃度範囲において高精度測定を実現しています。また、ゼータ電位、及び、分子量の測定が可能です。
ストークス‐アインシュタイン式が示す通り、粒子の拡散係数(D)は粒子径(dp:流体力学的直径)に反比例します。
(k=ボルツマン定数, T=温度, η= 粘度 )
粒子径を正確に測定するためには、液体のパラメータ T(温度)とη(粘度)の正確な情報が必要です。
動的光散乱式(DLS)は、ブラウン運動している粒子へレーザ光を照射し、一定の角度における散乱光信号を検出します。 散乱光は、粒子径に対応した光の強弱(ゆらぎ)、または周波数の変化として分析されます。周波数解析は、1Hzから100KHzの周波数範囲で行われます。
動的光散乱式(DLS)の散乱光検出方式には、ホモダイン方式(「セルフ・ビーティング」または「セルフ・リファレンス」)とヘテロダイン方式(「リファレンス・ビーティング」または「コントロール・リファレンス」)の2種類があります。 ホモダイン方式は粒子からの散乱光のみを検出しますが、ヘテロダイン方式では、粒子からの散乱光に加えて、入射光の一部を参照光として合わせて検出することで非常に強い信号強度を得ることができます。ホモダイン方式における散乱光信号強度は、平均散乱光強度の二乗であるis2に比例します。一方、ヘテロダイン方式における信号強度は、散乱光強度とリファレンスの強度の積であるis×i0に比例します。 ヘテロダイン方式では、散乱光信号強度が格段に強いことから、光源にはレーザーダイオード、検出器にはシリコンフォトダイオードを使用することが可能となっています。また、数十ナノメートル以下の超微粒子からの微弱な散乱光信号も参照光と合わせて検出することで高精度解析を実現しています。
λ= 懸濁媒体中の波長, ω = 入射光の周波数,
ωo = 散乱光の周波数,
η = 粘度, θ = 散乱角, is = 散乱光強度, io= 参照光強度, r = 粒子半径, k = ボルツマン定数, T = 温度
動的光散乱式には、時間依存の自己相関方式、または、周波数解析方式(FPS)の二つの方式があります。自己相関を利用したホモダイン測定は、広く普及している光子相関法(PCS)の基礎となっています。光子相関法は、中心径と分布の幅の大まかな指標である多分散指数のみを決定する方式です。更に粒子径分布を計算するには、装置固有のカーブフィッティングアルゴリズムが必要です。 一方、周波数解析方式(FPS)法は、検出した散乱光を高速フーリエ変換により周波数分布に変換して独自のアルゴリズムにより粒子径分布を求めます。分解能、測定精度等においてPCSよりも優れています。 周波数特性はローレンツ関数で表され、周波数は粒子径に反比例します。右図の通り、粒子径が大きいほど周波数は低く、粒子径が小さいほど高い周波数特性となります。
マイクロトラックは動的光散乱(DLS)に革新的なアプローチをとり、独自のプローブデザインを用いて光の供給と収集を行っています。レーザープローブを材料の界面に集光することで、マイクロトラックは短い光路長と参照ビート、180°後方散乱の利点を組み合わせ、最高の精度、分解能、感度を実現しています。
粒子からの散乱光と合わせて入射光の一部を参照光として180°後方で検出するヘテロダイン方式により、極低濃度のサンプルでも高精度測定を実現します。 ヘテロダイン方式では、蛍光粒子の粒子径分布(粒度分布)測定も可能です。
マイクロトラックが採用している光学プローブ方式では、プローブ界面の極近傍に分散している粒子からの180°後方散乱光を検出します。入射光の一部と散乱光を合わせて検出しており、光路長を最小限として最大限の散乱光を検出することで、高濃度スラリーの測定を可能としています。
動的光散乱式は、粒子径分布(粒度分布)測定に広く使用されている手法であり、特に、ナノオーダー微粒子の特性評価に適しています。溶液中粒子のブラウン運動(拡散係数)を測定し、ストークス-アインシュタイン方程式によって流体力学的な粒子径を求めます。測定条件として、分散溶媒の温度と粘度の入力が必要となります。
動的光散乱式(DLS)では、ブラウン運動している粒子にレーザ光を照射して、ある一定角度(例えば、180°後方)の散乱光を検出します。その散乱光の周波数変動、或いは散乱光強度の変動(ゆらぎ)から粒子径を求めます。
一般的な動的光散乱式(DLS)の測定範囲は、約1nmから数μmです。レーザ回折・散乱式と多くの測定範囲が重なりますが、サブミクロン、特に100nm以下の微粒子は、動的光散乱式のほうが測定精度が高く、逆に、1μm以上はレーザ回折・散乱式が適しています。
動的光散乱式(DLS)は、ナノ粒子の測定において数ppm~40vol%(サンプルによる)までの幅広い濃度範囲で高精度測定が可能です。試料を投入するサンプルセルは材質や容量の選択が可能であり、外部プローブタイプの装置では、様々なサンプル容器に直接浸けての測定を実現しています。また、ゼータ電位測定のオプションも選択できます。
様々な産業における1μm以下の微粒子、例えば、顔料、インク、エマルション、セラミックス、医薬品、飲料、食品、化粧品、金属、接着剤、ポリマー、コロイド、そして有機高分子などが代表例です。
動的光散乱式(DLS)は、ISO 22412に記載されており、ゼータ電位測定についは、ISO 13099に記載されています。
散乱光の検出には幾つかの方法がありますが、レーザ入射光の一部を散乱光のリファレンスとして利用するヘテロダイン方式は、S/N比の点で優れていることが実証されています。散乱光は、フーリエ変換により周波数パワースペクトルに変換されて、粒子径分布(粒度分布)が求められます。